
外に出ることが怖いわけではない。ただ、移動や会話や選択が重なると、気持ちが追いつかなくなる。そんな自分でも「ここなら呼吸できそうだ」と感じたのが、筋湯温泉の山あいにひっそり佇む喜安屋だった。坂道の先に現れる建物は控えめで、迎え入れるというより、黙って扉を開けてくれる印象がある。人の気配はあるのに、干渉はない。山に守られ、湯に預け、言葉を使わずに過ごせる時間が、ここには静かに流れている。

[名称]
筋湯温泉 山あいの宿 喜安屋
・住所:大分県玖珠郡九重町湯坪527
・電話番号:0973-79-3341
[アクセス]
大分自動車道九重ICから車で約30分。山道が続くが、筋湯温泉郷に入ると宿が点在し始め、迷いにくい。公共交通の場合は、バス利用後にタクシーが現実的。到着までの静けさが、そのまま滞在の空気につながっている。
[料金]
1泊2食付きで2万円台後半から。部屋や露天風呂の有無により幅はあるが、静養を目的とした滞在として考えると、心の消耗が少ない価格帯。


喜安屋の魅力は、筋湯温泉らしい湯量の豊かさと、空間の使い方にある。露天風呂は複数あり、それぞれが少し離れて配置されているため、人と重なりにくい。湯に浸かりながら聞こえるのは、風と川の音だけ。視界に余計な情報が入らないことで、思考が静かになっていく。


露天風呂

男露天風呂

男内湯

女 露天風呂

女内湯
その他に 貸切風呂 こうのゆ



客室は和の落ち着きを大切にした造りで、照明も柔らかい。部屋に入った瞬間、声のトーンを自然に下げたくなる。何かをしなくても、居るだけで時間が過ぎる。旅先でありがちな「持て余す感じ」がなく、何もしないことが肯定されている。


食事は地元の山の幸を中心に構成され、味付けは穏やか。香りや食感が主役で、言葉を添えなくても満足できる。個室での提供が基本のため、周囲を気にせず自分のペースで食べられるのも安心材料だ。食後、部屋へ戻るまでの短い移動さえ、静かな余韻として残る。

夕食 一例

先付け

朝食

筋湯温泉自体が、にぎやかさとは距離を置いた温泉地だ。観光を詰め込むより、宿で過ごす時間が自然と長くなる。喜安屋は、その流れを無理なく受け止めてくれる存在で、旅に不慣れな人ほど心地よさを感じやすい。

人に会わずに休みたいとき、説明を省きたいとき、この宿は選択肢としてとても素直だ。山に囲まれ、湯に身を預けるだけで、外に出た意味が生まれる。頑張らない旅を始める場所として、喜安屋は静かに背中を支えてくれる。

また疲れたら、思い出せばいい場所がある。その事実だけで、今日をやり過ごせる気がする。


